電子プリント・アーカイブ(e-print archive)とは、査読はしないで学術文書を保管し、公開する仕組みです。
一般に査読作業には数カ月を要することもありますが、近年の技術の進歩は速く、開発した技術知識は直ちに共有したいというニーズが大きくなっています。また、非常に専門化が進んだ結果、部外の者が適切な査読をするのが難しい場合があるという意見もあります。これらの課題を解決する手段として、電子プリント・アーカイブの運営が始まり、近年ネットワーク上のサービスとして拡大しています。
この仕組みは、物理や数学の分野では大きな成功を収めています。例えば、コーネル大学図書館の運営する arXiv.org は120万部を越える投稿論文を保管し、世界中から投稿が寄せられ、一箇月毎に万の桁のIDで管理しています。その起源は、1991年に米ロスアラモス国立研究所が、LANL preprint archive という物理学の電子プリントを保存するサーバを運営し始めたことですが、1999年には arXiv.org と改名し、大学図書館が財団の支援を得て運営し現在まで引き継がれています。
この電子プリント・アーカイブは、日本では京都大学基礎物理学研究所(旧湯川記念館)にミラーサーバが置かれています。このようなミラーサーバは、本家のサーバ以外に世界8か所に設置されています。
有名な活用例としては、世紀の難問と呼ばれた「ポアンカレ予想」を解決した三部の論文は、ロシアの数学者グリゴリー・ペレルマン が 2002 年から 2003 年にかけて arXiv.org に投稿した論文で、この功績によりペレルマンは 2006 年のフィールズ賞を受賞しました。
記事:改訂7版,2018年5月2日